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第63回コラム
旅と地域

情報アーキテクチャ専攻 松尾 徳朗教授

最近、日本国内どこに行っても外国人の方々を見ることが多いのですが、この10年間で観光庁のVisit Japanキャンペーンが功を奏して、年々訪日外国人旅行者数が増えてきております。

突然ですが、ここで問題です。

Q1: 日本から外国に旅行に行く人数と外国から日本を訪問する人数はどちらが多いでしょうか?
2009年以降は、新型インフルエンザ、リーマンショック、大震災などの影響で、訪日外国人旅行者数について増加は鈍化していますが、日本政府観光局の統計によれば、2013年は9月末の時点で約770万人ですので、過去最高の訪日外国人旅行者数となる見込みです。おそらくは2020年には年間の訪日外国人数1500万人はクリアできるのではと思います。一方、現段階で、国外へ旅行に行く人数は既に年間1500万人を超えており、年間2000万人に迫ろうとしています。

Q2: 海外からの訪日外国人旅行客の旅行の目的は何でしょうか?
旅行の目的は様々あります。大まかに3つに分かれます。一つ目が、一般の観光や知人の訪問など皆さんが想像しているタイプです。二つ目が、ビジネスでの訪日です。さいごに三つ目が、MICE活動での訪日です。ビジネスでの訪日は、取引での交渉や契約などの目的が含まれると思います。MICEは、ビジネスに近い側面をもちますが、金銭のやり取りがそこではあまり生じないタイプの旅行です。

Q3: MICE活動というのは、一体何なのでしょうか?
MICEは、Meeting(企業等のミーティング)、Incentive tour(社内報奨旅行)、Convention and Conference(国際会議)Exhibition(展示会)の略称です。これらを含む旅行は、ビジネスといえばビジネスですが、地方都市や景勝地で開催されることも多く、エクスカーションやアトラクションも含まれるので、観光的な側面も含まれます。近年、MICE活動が世界的に注目を集めており、我が国でも厳しい予算の中、奮闘している状態であると言えます。海外諸国は大きな予算のもとMICEおよび一般観光に対して、政策を推進しておりますが、日本はまだまだ悲しい状況です。

Q4: MICEでの旅行は一般の観光と本質的に何が違うのでしょうか?
一般の観光での予算は旅行者ごとに違います。安いところにたくさん泊まる代わりに、何泊もする人もいれば、10年に一回の旅行をゴージャスに過ごす人もいます。一方で、MICEにおいては、ある一定の品質が定まっております。例として、MICEの一つである国際会議について考えてみます。宿泊に利用するホテル、ホテルなどの会議室利用、会議後のレセプションやディナーバンケット、開催地の特色をPRするアトラクション、質の高いコーヒーブレイク、ISBNを持つ製本出版される資料集など、すべてにおいて高いレベルが求められます。

Q5: なぜMICEは品質を高く保つ必要があるのでしょうか?
上に説明しました通り、一目でお金がかかっていることが分かります。この国際会議の中身だけではなく、国際会議の事前打合せ、VIPのみのディナー、会議で出会った人同士が会議後に会食なども、高いレベルが求められます。一見、無駄が多いように感じる方もおられるかも知れませんが、このレベルを下げてしまえば、会議自体が快適ではなくなれば、海外からの会議への参加者が減ってしまい、その結果将来的に我が国の経済的あるいは技術的な優位性を失い、産業力が下がることにつながります。

Q6: MICEは地域を発展させる潜在力があるのでしょうか?
一般の観光に比べて、例えば国際会議は旅行者一人あたりの経済波及効果が6〜8倍といわれています。つまり、参加者500名の会議があれば、一般観光での旅行者3000名に相当します。ひと月に2回程度国際会議が誘致できれば、7万人以上の一般観光客数の経済波及効果に相当します。つまり、観光産業や観光資源で目立たない都市でも、国際会議誘致を成功させることができれば、地域を大きく変える力を持っています。その結果、社会的波及効果や文化的波及効果も大きくなります。社会的波及効果とは、地域への訪問者が増加することにより、交通基盤整備の充実や訪問者をより良く迎える観光人材育成の充実があります。文化的波及効果とは、例えば、医学関係の会議の場合、市民講座等が実施され、市民の健康に関する意識がアップします。

Q7: MICEはなぜ地域を発展させられるしょうか?
バスツアーや単純な旅行ですと、地域に1泊程度しかしないことが多いのですが、国際会議を例に出しますと、会期が5日開催されたりします。つまり、6泊程度の滞在をすることになります。また、国際会議では、上に説明した通り、様々な支出がありますが、多くが地域で消費されます。地域の印刷業者で会議プログラムが印刷され、地域のケータリング業者によりコーヒーブレイク用の数種類の飲食物が提供されることが多い訳です。コーヒーブレイクの例を挙げますと、5日間の会期の国際会議で参加者500名だとします。コーヒーブレイクは午前と午後1回ずつ実施され、数種類の飲み物放題といくつかのお茶菓子を含めて一人当たりの単価が800円だとすれば、それだけで400万円になります。

 このように、大きなビジネスチャンスと大きな地域の変革と発展を生むのがMICEです。また、MICEと一般観光も関連性が高く、同時に発展させることが望ましいと言えます。例えば、MICEの旅行者が会議参加のついでに、地域を観光したとします。そもそもMICE旅行者は政府関係者、企業役員、大学教授等の情報発信力やその信頼性が高いといわれる人たちですので、影響が大きいことはいうまでもありません。もし、地域への印象が良ければ、その評判は広まりやすく、ますます地域がより良くなる機会を得ることになります。

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