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第89回コラム
手を加えながら活用すること

創造技術専攻 佐々木 一晋 助教

 近年、みなさんのご近所にも空き家と思われる物件が増えてきているのではないでしょうか?私の家の近所でも、散歩していると、住み手の管理が行き届いておらず雑草が生え放題の庭や雨戸が閉じられたままの建物、テープで投函口が塞がれたポストや放置され錆びきった物干し竿、空車の駐車場など、空き家らしき様相を呈した物件を数多くみつけることができます。本来、人が住むために建てられた住宅は、住み手がいなくなることで、時に、街の中では異質な印象を放ちます。住居や街という対象は、不思議なもので、一旦、住み手がいなくなり管理が不届きになってしまうと、急に廃れてしまうものです。
 一般的に住居は、住まい手の生活を支えるさまざまな機能をもった部材や設備が集まることによって構成されています。しかし、一旦、住まい手が不在となると、住居を構成するさまざまな機能や環境が不全に陥ることになり、その廃れた様相(機能不全の顕在化)は顕著に進行します。例えば、使えるはずのポストが使えていない状態、自動車が停められるはずの駐車場なのに活用されていない状態、心地よい気候にかかわらず窓が閉じている状態、日常的に使われる通路が雑草で生い茂っていて歩けない状態など、住まい手によって日常的に維持されているはずの機能が使われていない状況が顕在化してしまうことは、時に廃れた様相を助長することになります。
 近年、住み手に代わって不在時の住居を管理してくれるサービスが注目されています。建物内の空気の入れ替えやポストの投函物の処理、生け垣の管理などの最低限の空き家の維持管理を目的としてさまざまな管理の手が加えられていますが、やはり住み手自身が管理の手を加えるプロセスは大事であると考えています。建物のみならず、人々に活用される人工物の多くは、適度に管理(マネジメント)の手を加えることで、その機能性を十分に発揮できるようになります。しかし、単なる機能性を向上するために手を加えることが必要とされているのではなく、モノの価値を向上する際にも手を加えるプロセスが大事であると考えられています。建物内の木製建具や金物丁番は、日々住み手が開閉することで動きが良くなり、台所で扱う包丁や大工道具なども、日々活用しながら管理の手を施すことで機能性を維持し、末永く活用していくことが可能です。住み手や使い手自らが建物(製品)の組み立てや手入れに直接関わることで、既に組み立てられている既製品よりも、本来以上のより高い価値を見出すことができるとされており、組み立てや手入れのプロセスへの関与の仕方次第では、製品やサービスを手放したくないほどの商品の価値を引き出す場合があることも示されています。モノの価値は買うものではなく、つくるプロセスの中にあると考えられるように、こうしたユーザー自らが手を加えることでモノの価値を高めていく効果が指摘されており、IKEAのビジネスモデルにちなんでIKEA効果とよばれています[1]。IKEAでは、単に既製品を売るのではなく、製品と同時に「(簡易な工法ですが)つくるプロセス」をユーザー側に提供することでモノ自体の価値を向上することを試みているのです。
 現代はモノが溢れる時代だからこそ、空き家や中古の家具や道具など、未活用の資源の価値を再発見し、積極的に活用していくことが大事になってくるように思います。積極的に身の回りのモノに手を加え、新たな活用方法を考えてみてはいかがでしょうか。モノの価値を問う新たな契機になるかもしれません。

[1] Michael I. Norton、 Daniel Mochon、 Dan Ariely、 The IKEA effect: When labor leads to love、Journal of Consumer Psychology 22、 pp. 453–460、 2012

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