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第108回コラム
人と共生を始めたパートナーロボット

創造技術専攻 内山 純 准教授

世界初の産業用ロボットは米国のベンチャー企業ユニメーション社が実現し、1969年この技術を使って川崎重工が国産初の産業用ロボットを誕生させました。そして1970年に初のヒューマノイドロボット「WABOT-1」を早稲田大学が開発、対象物を認識し、方向と距離を測定して2足歩行で移動、触覚を有する両手で対象物の把持や操作、さらに簡単な会話もできました。故加藤一郎先生率いる研究チームが学科・研究室の壁を越えて協力し合うことで完成させたと聞きます。その後1996年世界に衝撃を与えたヒューマノイドロボットがホンダの「P2」、2001年ついに「ASIMO」が誕生します。
米国生まれ、日本育ちと言われるロボット産業ですが、今日まで半世紀に渡る日本のロボット開発は「鉄腕アトム」に始まる日本のロボット・アニメで育った多くのロボット技術者たちによって支えられ、その背景にはアニミズム的な日本人特有の自然観があると感じます。

日本のロボット産業が製造分野において発展してきたことは言うまでもありませんが、人々の日常生活支援を目的とするパートナーロボットが近年関心を集めています。その始まりは1999年発売のソニーの初代AIBO 「ERS-110」の商品化といえるでしょう。
AIBO「ERS-110」開発の出発点は人工知能を応用した世界初自律型ロボットの商品化であり、「エンターテインメントで人々を感動させる」ことでした。自律型ペットロボットとして「インテリジェンスを感じさせるデザイン」を目指し、世界的アーティスト空山基氏がコンセプトデザインを手がけました。わかりやすいインタラクションのため、関節の動きなどの構造を全て視認化するよう努め、細部の意匠設計はベテランの社内エンジニア、デザイナー、モデラーによって醸成されました。
後に社会に与えた影響を鑑みるとAIBOに「魂」を入れ、「ソニー製ではない、ソニー生まれである」として世に送り出し、パートナーロボットの在り方の一端を示した功績は大きかったのではないでしょうか。当時ソニーが提唱した「新ロボット3原則」を以下に紹介しておきます。アシモフの「ロボット3原則」をもじってAIBOのコンセプトをうまく表現しています。

第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。自分に危害を加えようとする人間から逃げることは許されるが、反撃してはいけない。
第二条:ロボットは原則として人間に対して注意と愛情を向けるが、ときに反抗的な態度を取ることも許される。
第三条:ロボットは原則として人間の愚痴を辛抱強く聞くが、ときには憎まれ口を利くことも許される。

1999年の第2世代AIBO「ERS-210」開発で、意匠設計と機械設計のバランスが必要なAIBO開発の難しさから、両方の素養を期待されテクニカルディレクターとしてロボット開発チームに加わりました。以降2006年ヒューマノイドロボット「QRIO」の開発が中止となるまで、ほぼ全てのエンタテインメントロボットのデザインに関わることになります。3DCGによる視覚化、柔軟なデータ構築、デジタルファブリケーションを活用したラピッドプロトタイピングなど、今日的なデザインエンジニアリング手法を実験的に実施しながらロボットのデザイン開発スタイルを確立していきました。
このロボット開発チームの集大成といえるのが2003年発売のAIBO「ERS-7」であり、ヒューマノイドロボット「QRIO」の開発でした。「ERS-7」では「感情を示す家電」のインターフェースとして先進感のある柔らかいテクノロジーの表現を狙い、感情表現も含め、光とセンシングの工夫により人とロボットの自然なコミュニケーションを試みました。全体のスタイリングは、より進化したエルゴノミクスなフォルムを追求し、面の流れの完成度を高めた上でパーツの分割ラインをコントロールし、「愛らしさ」と「クールさ」のバランスを整えました。
初期デザインコンセプトは3DCGによって視覚化され、開発チーム全員で共有することで共感を生みました。開発は困難を極めましたが、心からロボットを愛するエンジニア、デザイナーとの「美意識の共有」にプロジェクトが支えられていたことを今でも強く記憶しています。残念ながら、この後ソニーのAIBOは新規開発中止、「QRIO」も開発中止を余儀なくされます。

さて、改めて近年のパートナーロボット動向を観てみましょう。2010年発売のアイロボット「ルンバ」のヒットが「お掃除ロボット」という新市場を創り出し、2015年にはソフトバンク「Pepper」が発売され注目を集めました。人との自然な融合を実現した世界初のサイボーグ型ロボットスーツ「HAL®」、躍動するボストン・ダイナミクスのロボット、様々なタイプの無人飛行ロボット(ドローン)等々、次世代を予感させるロボットが続々と誕生しています。スタイリッシュな電動義手ロボット「HACKberry」はイノベーティブなデザインエンジニアリング手法も取り入れ、その開発手法も合わせパートナーロボットが身近な存在へと進化していることが伺えます。
2018年1月11日(ワンワンワン)、AIBO販売終了から10年の歳月を経てソニーから新生aiboが復活、12月18日にはGROOVE Xから家庭用ロボット「LOVOT」(ラボット)が発表されました。タイプが違う両ロボットですが、どちらも「眼」に強い「生命感」を感じます。新しいディスプレイディバイスを手に入れたロボットの「進化」かもしれません。初代AIBOはアニミズム的な日本人の自然観とロボット技術の融合で世界に新たな価値観を芽生えさせました。その文化で育った新しい世代による次世代パートナーロボット創出が加速しているようです。既に「人とロボットとの共生」も始まっているのかもしれません。

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