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第117回コラム「社会・情報・技術」

情報アーキテクチャ専攻 松尾 徳朗 教授

流行っている老舗旅館は、顧客それぞれの求めているものを把握し、それぞれの顧客が最大の満足を得られるサービスを提供しようとしている。一例として、数回利用している顧客に対して、同じメニューの食事を提供せず、毎回内容を変えたり、アレンジしたりして提供し、顧客を飽きさせず、より満足させる努力をしている。また、記念日や特別な日には、サプライズとして特別な演出などを凝らすこともある。そのように、お金では簡単に買うことができないサービスに対して、大きな感動を得て、その結果満足度の向上につながる。

近年の計算機能力の大幅な向上と高速なネットワークにより、情報工学の分野においてサービスを最適化する技術が実現しようとしている。応用情報学は、情報工学や情報科学の基礎的および応用的な技術と社会を結ぶ研究分野であり、そのなかでもサービスに関わる研究は特に注目を集めている。画一的なサービス設計と提供手法を考える従来の方法は時代遅れである。一例として、計算機により刻々と変化するユーザのウォンツを過去のデータや様々な条件および制約により同定し、サービス提供者が行う業務について、最適なサービスを提供するために業務の内容、レベル、順序をリアルタイムなシミュレーションにより明らかとすることができる。さらに、一歩進んで、Society 5.0時代においては、フィジカルとサイバーを融合させることによる、革新的な社会課題の解決も期待されている。

サービス提供者の収益を最大化することも重要であり、需要予測などのサービスマーケティング理論を用いた価格設定モデルや、種々のモデルを複合的に活用したイールドマネジメントなどにより、【顧客満足度最大化】と【収益最大化】の実現を通した、【社会の最適化】に関する研究成果と実用化に向かっている。これらのサービスサイエンス、サービスエコノミクス、サービスマーケティング、サービスマネジメントを含む研究分野は、クラウドコンピューティング、ビッグデータやデータマイニング技術、モバイルコンピューティングなどと親和性が高く、大きなビジネスチャンスが潜む分野として認識されている。

このように、社会に情報技術が受容され、浸透することで、認識されている数々の課題が解決可能となるばかりではなく、人間生活の利便性向上に寄与できる。その一方で、人間にしかできない業務やサービスも事実存在している。すべてを情報化したり自動化するのではなく、どこに技術が必要かを見極めることも、専門職業人として求められる能力であると感じている。

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