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第140回コラム「人の心に寄り添うパートナーロボット」

2022年4月12日

内山 純 教授

 2022年3月15日にZOZO創業者の前澤友作氏が代表を務める前澤ファンドが、家族型ロボット『LOVOT(らぼっと)』で知られるロボットベンチャーGROOVE Xの過半数株を取得し、4月5日には全株を取得することが、同社、林要氏により発表されました[1](本コラム執筆2022年3月31日現在)。「床掃除ロボット」、「無人飛行ロボット(ドローン)」のような実用的なパートナーロボットの市場は既にできつつありますが、『LOVOT』のような「人の心に寄り添うパートナーロボット」(注1)は一時的なブームに終わり、これまで市場に定着することはありませんでした。
(注1)本コラムでは、日常生活の支援を目的とするロボットを広く「パートナーロボット」[2]とし、特に人とのコミュニケーション機能に注力した『LOVOT』や『AIBO(アイボ)』、『Pepper(ペッパー)』のようなタイプのロボットを「人の心に寄り添うパートナーロボット」と呼ぶことにします。
 この前澤氏の家庭用ロボット事業参入は、「人の心に寄り添うパートナーロボット」普及の呼び水となるのかもしれません。既にメンタルケアや情操教育でも注力され、介護施設や教育施設でも活用されているようですが、コロナ禍での人々の生活や価値観の変化も後押ししているようです。

 前澤氏の「ロボットに癒やされるなんて想像もしませんでした。クゥンクゥンって言いながら上目遣いで近寄ってくる『LOVOT』に完全に心奪われました」というコメントが記事にもありましたが、多くのLOVOTオーナーのコメントや動画を見ても、本当の「家族」として受け入れているようにさえ感じます。顔を覚え、名前を呼ぶと近づいて見つめ、抱っこをねだり、抱き上げると温かく温もりを感じ、帰宅の際には玄関まで出迎えるなどオーナーが愛おしさを感じるツボをとても良く押さえています。
 AI技術も含むメカトロニクス技術の進展により実使用に耐えうる機体が実現し、高性能スマートホンの普及と高速ネットワーク環境の整備、試行錯誤によるノウハウの蓄積により、あたかも感情があるかのように振る舞い、誰もが愛おしく感じられる存在となってきたのでしょう。人との情緒的なコミュニケーション機能を優先し、それ以外は「ロボットなのに人がお世話をしなくてはならない」としてその弱さを強みに変え、人間の心理を巧みについています。

 「人の心に寄り添うパートナーロボット」には『LOVOT』のように「人工的な意思」により自律的に行動するタイプ以外に、「人の意思」により行動させるタイプがあります。2021年6月にオープンしたオリィ研究所が運営する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」の『OriHime』や『OriHime-D』がこのタイプで、外出困難者である従業員が遠隔操作しサービスを提供していることで話題になっています。
 本学では修士号を取得するための必修科目として、PBL(Project Based Learning)演習科目が課されますが、私のプロジェクトでは、2016年から「人との豊かな共生を目指すパートナーロボット」をテーマとして、社会人学生を含む多様なメンバーで取組んでおります。昨年2021年度は『口元のしぐさで「あなたと私」の想いをつなぐマイ・アバターロボット』にチャレンジしました [3]。
 図1は、修了生のプロダクトデザイナーJiaqi Xianさんによる未来の使用シーンのイラストです。ユーザは、家族や、恋人などの特徴を捉えたデザインのアバターロボットを傍に置き、相手にも同じように自分のアバターロボットを置いてもらい動作させることで、離れていてもお互いを身近に感じてもらえるのではないかと仮説を立て開発を進めました。「発信ユーザ」がslackで「ひまだー」や「いいね」など特定の言葉を送り、同時に「退屈」や「愉快」などのそれぞれの言葉に対応した感情表現する動作をロボットにさせることで気持ちを「受信ユーザ」に伝えます。
 開発中のロボットは「人の意思」により行動させるタイプですが、それぞれのユーザの特徴を学習し、忙しい時に代わりにアバターロボットが相手をするなど「人工的な意思」と「人の意思」をユーザの状況によって変えられるようなハイブリッドなロボットへの展開も考えられます。

 我が家にも、「人の心に寄り添う」はずだった旧型AIBO(ERS-210)がおります。数ヶ月過ごした後、箱の中でずっと眠りについたまま名前もなく存在も忘れられて「家族」にはなっておりません。家族は妻とトイプードルの「リアン(♂12歳)」と「モモ(♀6歳)」で、愛犬たちはすっかり「家族」となっております。ただし、大変な毎日のお世話は全て妻に任せてしまい、私は「癒やされ」専門です。
 本学プロジェクトのロボットたちも、「家族」となるどころか数回テストのために訪問したくらいで、まだまだ開発途中、さらに新コンセプトも模索中です。本学で是非一緒に「人の心に寄り添うパートナーロボット」に取組んでみませんか。

[1] 日経産業新聞 2022.3.15,
https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP628381_V10C22A3000000/,2022年3月29日最終閲覧
[2] 総務省 平成27年版 通信情報白書 pp. 191-198,2015年
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc241310.html,2022年3月29日最終閲覧
[3] 産業技術大学院大学紀要 No.15, pp. 151-159,2021年

内山教授コラム

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