第151回コラム
上海のコンビニで感じた、日本とは違う“値段”の世界
2025年7月1日
助教:尹 国花
今年3月、中国・上海に資料調査のため渡航しました。中国を訪れるたびに感じるのは、その社会変化のスピードです。今回も日常生活のあらゆる場面で、技術の浸透と社会の変容を実感しました。
現在の中国では、ほとんどすべての行動がスマートフォン一つで完結しており、飲食店や交通機関の予約、注文、決済はもちろん、住民サービスの手続きに至るまで、モバイル端末を通じた処理が一般化しています。特にキャッシュレス決済の普及率は目覚ましく、現金を使う場面はほとんど見られませんでした。一昨年訪れた際には、中国国内の電話番号がないと一部サービスの利用が制限されるなど不便さもありましたが、昨年にはその障壁も解消され、外国人でも一層利用しやすい環境が整えられていました。都市生活の利便性は、まさに日進月歩で向上していると感じます。
さて、帰国前日、ちょっとしたおやつが欲しくなり、宿泊先近くのファミリーマートに立ち寄りました。購入したのは、包装されたごく一般的なスナック菓子で、価格は9.4人民元(当時のレートで約200円弱)でした。しかしその後、別のエリアにある同じファミリーマートを訪れたところ、同一の商品が8人民元で販売されていたのです。さらに興味が湧いて、近くのセブンイレブンに足を運んでみたところ、同商品が6.8人民元で陳列されていました。すでにいくつも購入していたこともあり、少々損をした気分でホテルへ戻ったことを覚えています。
左:ファミリーマート1店舗目、右:同2店舗目
この一見些細な出来事は、日本と中国の小売業における価格制度の違いを示しているようにも感じられました。日本のコンビニエンスストアでは、同一チェーンであれば商品価格はおおむね一律であり、地域や店舗によって価格に差が出ることはほとんどないと思います。それに対して、中国では、同じブランドであっても、店舗ごとに同一商品の価格が異なることに驚きました。この価格差は、消費者の購買力や地域経済の状況、さらには店舗の立地条件(中心部か郊外か)といった要素に応じた、柔軟な価格設定の結果なのでしょうか。
中国ではフランチャイズ制度の展開が進んでおり、地域本部や契約形態によって、店舗ごとの価格調整の裁量範囲が異なるようです。実際、同じチェーン店であっても、異なる法人や運営主体が管理しているケースもあり、それが価格の違いとして表れることもあるでしょう。私が上海で見かけたような、同一ブランドのコンビニで同じ商品が異なる価格で販売されているという現象も、こうした制度的背景に支えられているのかもしれません。都市によって家賃や人件費などの経営コストが異なるだけでなく、運営側に一定の価格設定権限が与えられているため、地域や立地に応じた価格戦略がとられているのでしょう。
さらに、中国では「価格は常に一定のものではなく、状況に応じて変動して当然である」という考え方が、広く社会に共有されています。オンラインとオフラインの価格が違うことに対しても、それを不公平とは見なさず、比較・選択の結果として受け入れる文化が根づいています。価格とは交渉や工夫の対象であり、「常にベストを選び取る」ことが消費者の行動原理の一部になっているように感じます。このような価格に対する柔軟な考え方は、単なる消費習慣の違いにとどまらず、企業側の戦略や、消費者との信頼関係の築き方にも大きな影響を与えているのではないでしょうか。
このスナック菓子一つのエピソードからも、日中両国における市場運営や価格観の違いが垣間見え、非常に興味深い観察機会となりました。