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第54回コラム
「超低エネルギー社会の在り方とは」

創造技術専攻 教授 橋本洋志

「超低エネルギー社会の在り方とは」

 2025年、アジア諸国が石油超消費国になった現在、日本は石油輸入が難しくなり、石油消費機器・施設を全面廃止する政策を進めている。そのため、超低エネルギー社会実現を実現するべく、ライフライン、物流、情報を都市スケールで制御するようになった。すなわち、都市部の狭い領域で必要な時間だけに物流・エネルギー・情報をリアルタイムで供給する超効率社会の実現である。しかも、これまでの過疎化が幸いしてインフラ再整備がしやすい地方都市ほど超効率化が進行し、地方への人口流動が始まった。

 上記の文章は、私が電気学会産業応用部門「次世代産業システム技術委員会」委員長として2010年12月に執筆し、電気学会誌2011年3月号(http://www2.iee.or.jp/ver2/ias/22-newsletter/nl_2011.html)に掲載された。執筆当時、中国、ASEAN、インドの驚異的経済発展がエネルギーと食糧の消費増加を招いており、日本への輸入がいずれ枯渇しても不思議ではない、と思っていた(備考1)。枯渇しないよう、政策、通商、経済の立て直しをするという考え方はもちろん大事であるが、物事へは常に2局面を想定して事にあたることという先人の教えに従い、冒頭の文章のように、超低エネルギー社会に対応できる未来の明るい(?)展望を考えたつもりであった。これを執筆した当時、超低エネルギー社会を政府と国民が真剣に考えるのはまだまだ遠い将来のことと思っていたが、2011年3月11日の東日本大震災が喫緊に考える状況を招くとは夢にも思っていなかった。

 さて、日本らしい超低エネルギー社会とは何かを少し考えてみよう。もちろん、スマートシティという用語とほぼ同義語として私自身は用いている。
日本ならではの暗黙の条件が幾つかある。それは、
1. 生産活動が行えること。
2. 都市機能が高機能化していること

 この二つの条件が日本では必須であろう。1.は、何と言っても日本は資源の無い国であるから、何らかの生産したものを輸出することで生存しえる国である。この生産は、従来の工業製品のみならず文化、芸術、さらにサービスも含む。2.は、日本人の几帳面という特質を考慮している。海外の友人から、よく「日本人はpunctual(時間を固く守る、几帳面な)だ」と言われるように、この几帳面さがものづくりの信頼を国際的に勝ち取ってきたと言っても過言ではない。だから、この几帳面さが損なわれるような社会であってはならないと考える。都市機能の中で、几帳面さが問われるシーンは、電車や飛行機が時刻通り(備考2)、かつ、頻繁に運行する。どこでもいつでも欲しいものが入手できる(コンビニ、24時間スーパー、ネット通販)。しかも、大勢の人が混乱することなくスムーズな活動を支援するシステムがインフラとして充実している(備考3)。

 したがって、日本型の超低エネルギー社会(スマートシティと言い換えてもかまわない)の在り方は、この2条件を満たす上で考えなければならない。その答えは当然いくつもあるであろう。だが、その結果は、これからエネルギー政策や産業構造問題の変換が迫られる外国に、きっと受け入れられる。すなわち、条件1., 2.を考慮することこそが日本のインフラ産業を輸出に導くことを可能とするキーワードとなる、と信じている。さて、この問題、本専攻のデザイン系の先生方がPBLで幾つか取り上げているので是非ご覧頂きたい。私の考えは先のURLに掲載しているので、これも是非ご覧頂きたい。

 (備考1)日本の石油輸入は中近東に大きく依存しており、地政学的に不安定であり、これを解決しなければいけないと言われている。また、小麦、大豆のほとんどを輸入に頼っているのは周知の事実。他にも他国によるオーストラリアのロブスターの買占め、バイオ燃料にするためのトウモロコシ買占めのため、これらが一時日本にほとんど輸入されなかったことがある。

 (備考2)電車遅延の感じ方について、三戸祐子著:定刻発車日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか(新潮文庫)によると、日本人は1分、几帳面なドイツ人でも5分以上、同じ欧州の英国人は10分以上、イタリア人は15分以上とのこと。私の経験ではイタリア人は30分以上の遅延のみならず、勝手に電車運行が取りやめになっても(どうも運転手が来なかったらしい)、悠然と数時間待っている姿を見たことがある。

 (備考3)他国と比較すると、インフラ形態は思想や宗教の影響が大きいと思われる。例えば、電車の改札口があげられる。日本は過ちを犯させないようなシステムを考えるので、切符(いまは、SUICAなどのICカードが代替)により入構を許可する。そして、大量の人流を短時間でさばくシステムが発展した。欧州は唯一神に対する約束を守る、という思想から自己責任が問われるため、改札口がなくても人は正しく切符を買って乗車することが暗黙の了解となっている。その分、違反が見つかればその処罰は日本よりも重い。

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