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令和5年度秋季学位授与式を実施しました

令和5年9月16日(土)、東京都立産業技術大学院大学秋季学位授与式を実施しました。この日、事業設計工学コース2名、情報アーキテクチャコース7名、創造技術コース2名が修了しました。修了生に向けた学長の式辞を紹介します。また、今年度の秋季学位授与式から学位記の授与を手渡しで行いました。

橋本洋志学長 式辞

橋本洋志東京都立産業技術大学院大学学長

東京都立産業技術大学院大学を修了される皆さん、修了、誠におめでとうございます。東京都公立大学法人および本学の教職員ともども皆さんの学位授与を心からお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで支えてこられたご家族や関係者の皆さまに心からお祝い申し上げます。
みなさんが入学した頃はまだコロナ禍の最中にあり、対面授業の完全実施が難しい時期でした。本来、深い学びにはどうしても対面でないと成しえない部分がありますが、本学は教育の質を落とさない、学びの継続を妨げないというポリシーのもと様々な工夫を凝らし、それに対応するようみなさんにお願いしてきました。その分の苦労はありましたが、その中で勉学に励んで修了されたことに尊敬の念を覚えるものがあります。
皆さんは修士の専門職学位を授与されました。本学の学位授与は修士論文審査は行っておらず、それよりも社会で活躍できる力の養成に重点を置いています。その一つとして、本学はPBL型科目を通してチームとしてのグループワークを教育プログラムの中に入れています。みなさんはメンバー間での啓発と刺激をお互いに与えながら、幾つもの能力を磨き上げられたことでしょう。
その成果は今年も2月11日にPBL成果発表会でも披露されました。今回、全国に向けてのオンライン配信を初めて試みました。幾つかの反省点はあるにしても、外部からの反響は従来の大学院発表会と異なり、社会の問題解決に資するものが大きいという声が多数ありました。例えば、大都市や現代社会における人々の生き方の根本的問題の抽出と分析、そしてその課題解決ツールの提案、セキュリティインシデント対策に取組むなど、他にも多数現代社会が喫緊の課題に真正面から取組み、社会実装まで試みた内容もあり、まさしくPBL型科目を通じて、多様な学生のシナジーが効果的に発揮できたものと感じました。優れた才能を持つメンバーというのは、才能がぶつかり合い、時として摩擦が生じたことでしょう。しかし、そのような摩擦を経験してこそ、真の能力が身に付くということも歴史が証明しています。その気付きこそが、みなさんのこれから活躍される糧になると私は信じています。

令和5年度秋季学位授与式

みなさんは今述べた能力と高度な知識を修得されて本日本学の学位課程を修了されます。ですが、みなさんの学びはこれで終わるわけではなく、これからも何らかの形での学びの活動は続きます。

学びを続けることは大変なエネルギーを必要とし、時として疲れて学びを辞めたいと思うことがあるでしょう。そのときに次の言葉を思い出してください。それは「好奇心に基づく研究」です。ここに、研究とは大学の教員だけが行う行為ではありません。向上心を持つ人ならば誰でもが行える行為です。研究とは新しい事実や解釈の発見であると言われています。ですから、企業においての商品開発や一般市民の生活活動において、例えば、新しい料理に挑戦するための工夫などは正に研究という活動の範疇に入ります。

好奇心に基づく研究である例を紹介いたします。人は古来から時間を測る必要がありました。そのうち、ある人はどれだけ正確に時間を測ることができるのかいろいろと工夫をしました。天体や太陽を視たり、振り子を振ってみたりしました。この好奇心、一体、時間の精度はどこまで追及できるかという飽くなき探求があり、イギリスの国立物理学研究所の科学者らが1955年にセシウム133を用いた原子時計を開発しました。現在の時間の標準となったものです。この原子時計は放射線を出さず安全なものです。この時計の精度は10のマイナス10乗です。これは約300年で1秒の狂いに相当する精度です。一般の人からすると、この精度が日常生活にどのような影響を与えるのかは多分実感できないと思われることでしょう。また、どうしてそこまで精度にこだわって研究を進めるのか、若干不明なことと思われる方もいらっしゃるでしょう。実際その当時、光の速度を正確に測るくらいしか実用性はありませんでした。
時は流れて、1990年代にアメリカ合衆国が運営するGPS(Global Positioning System)が世に登場しました。GPSは位置計測で威力を発揮し、今では車のみならず、船舶や飛行機、さらには都市空間情報を与える現代社会では必須の社会インフラの一つとなっています。GPSを用いた位置計測は、電波の速さと到達時間を基に行われます。したがって、時間の精度はとても重要です。もしこの時間の誤差に1マイクロ秒(1秒の百万分の一)が生じると、地上ではおよそ300メートルの誤差に繋がり、これだけの誤差が生じたら使い物にならないでしょう。先の原子時計はGPS衛星に搭載されており、この誤差を生じさせない精度を有しています。すなわち、どのような役に立つかわからない研究が後世において花を咲かせた。そして、好奇心に基づく研究が社会に役立ったという良い事例です。ただし、GPSの測位原理はもう少し複雑で、相対性原理より地上と衛星では時間の進み方が異なるので、この補正が必要であること、また、各衛星の時計の周期は同じでも位相がずれていますので、その補正が必要であるなど、実際には幾つかの技術も導入されています。この時間とGPSの話は、好奇心に基づく研究は創造性にも繋がると言えます。

令和5年度秋季学位授与式

みなさんは産技大で高度な知識とスキル、そして豊かなコンピテンシーを修得されて企業などで活躍されることでしょう。その企業がどれだけ社員の創造性や好奇心に基づく研究を認めるかでイノベーションを起こせるか否かが問われていると言われています。ここで興味深いレポートがあります。
ある世論調査会社が企業経営者たちに対して「社員たちの創造性を重視し、育んでいるか」という質問を行いました。その結果、6割以上もの経営者がイエスと答えたそうです。世論調査会社はその後、その経営者たちの企業で働く従業員たちに質問したそうです。それは「従業員が好奇心旺盛で革新的だったら、経営者は喜ぶか」という質問でした。その結果「経営者は創造性を求めている」と答えた従業員は約4割だったそうです。つまり、多くの経営者は創造性という価値観には賛同しながら、実際はそれらをネガティブに捉えているという解釈ができます。みなさんが「好奇心に基づく研究」または「創造性のある活動」を企業内で続けるにはどうしたらよいのでしょうか?現実的な問題です。

可能性として考えられるのは、
● 1番目 黙って研究を進め、実績が出てからそれを披露して認めてもらう。ただし、この場合は賛同者や仲間をつくらないとうまくゆかないでしょう。
● 2番目 時期が来るまで研究をせずにじっと待つ。これは日本人的感覚で、耐えて待っていればいつかきっと良い日が来るという考え方です。ですが、これで上手くいった例はあまり知りません。待つという行為はその出口が見えていないと難しいと考えられます。
● 3番目 企業を飛び出してご自身が経営者またはリーダーとなり、イノベーションを起こす。

この3案はいずれも現実的でどれも否定できないでしょう。ただ、どの場合でも言えることは、
● 何をするにしても何らかの技術が必要である。
● 自分に足りない技術は仲間をつくり補ってもらう。

みなさんは技術を本学で高められ、そしてPBLを通じて、異分野であっても仲間をつくる経験を積まれましたから、どの道を選ばれても活躍されることでしょう。

最後に、産技大は社会の技術変革と価値の多様性に適応できるよう、日々、教育と研究の在り方を探求しています。そのため、産技大は産業技術分野のDX型教育やリスキル学習等で深い学びができる教育を実施し、さらに多くの外部機関と連携して社会に貢献できる研究を推進する予定です。そして、修了生や在学生にとっても、また我々教職員にとっても、人々の幸せと社会の持続的な発展に貢献する、誇りある大学院であるようにいたします。産技大の一員であるという誇りを胸に、皆さんが大いに活躍することを心から祈念して、私からの祝辞といたします。

令和5年9月16日
東京都立産業技術大学院大学
学長 橋本洋志

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