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令和7年度秋季入学式を実施しました

令和7年9月27日(土)、東京都立産業技術大学院大学秋季入学式を実施しました。この日、事業設計工学コース3名、情報アーキテクチャコース7名、創造技術コース7名が入学しました。新入生に向けた学長の式辞を紹介します。

橋本洋志学長 式辞

令和7年度秋季入学式画像

東京都立産業技術大学院大学に入学された皆さん、入学おめでとうございます。東京都公立大学法人、そして、本学の教職員ともども皆さんの入学を心よりお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで、支えてこられた、ご家族や関係者の皆さまに、心よりお祝い申し上げます。本学について、改めてご紹介します。本学は、専門職大学院です。専門職大学院とは、文部科学省の定めにより、科学技術の進展や社会・経済のグローバル化に伴う、社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人、すなわち、高度プロフェッショナルの養成に目的を特化した課程を言います。現代社会は、科学技術が発展し、個人や社会の価値の多様化が進んでいます。その上に、世界における戦争、紛争、気象変動に伴う自然災害、エネルギー問題、環境問題、食料飢饉など、さまざまに複雑な問題が絡み合って、これらに直面しています。そのため、20代までの教育だけでは、この変化する社会で活躍できるのが難しいであろうという背景のもと、東京都と産業界の要請により本学は2006年(平成18年)に開学しました。ここでいう産業界とは、工業製品に加えて、デザインやサービス、さらに商品開発、事業戦略などを産み出す、多くの分野を含んでいます。これらの背景のもと、産技大は、プロフェッショナル人材を輩出するため、優れた教授陣と事務組織を有しています。産技大は、学生のみなさんが、この世に新たな価値をもたらす能力を身に付けることのできる、国内外で評価の高い教育プログラムを提供しています。そして、産技大は、修了生として、多くのプロフェッショナル人材を世に輩出してきたという実績があります。修了生の例として、3例ご紹介します。1番目は、プライム市場クラスの企業の管理職が入学し、価値デザインやグローバルコミュニケーションを学び、修了後、グループ会社の代表取締役社長に昇進して、国内のみならず国外でも大いに活躍されている方がいます。2番目は、この城南地域にある中小企業の社長が、会社の発展のため、本学に入学し、ITやプロジェクトマネジメントを学び、会社に戻られてから、ITマネジメントを駆使して働き方の改善を果たしたのみならず、本学で学んだ知識を基に、公的な補助金を獲得できるようになり、更に会社を発展させた方がいます。3番目は、国立大学の大学院を修了後、大手企業に就職するも、自分の考える自己実現にそぐわないと感じ、本学に入学し、デジタル技術やサービス学を学び、修了後に、あるマネジメント会社を立ち上げ、現在では、その業界で有名になった方がいます。これらの修了生の方々は、入学時において、既に職業を持っていた、または、職業経験をされた方々でした。そのため、社会の仕組みを実感してから 俯瞰する学問の世界は、10代から20代前半の学生の時のそれとは全く異なるものと感じたそうです。そして、自ら、学びたいと思って産技大に入学されたので、学びに対して前のめりに取り組むことができ、学問と社会のつながりが見えて、より複雑なこと、より難しいことを更に学びたいという意欲にかられた、という感想を述べています。さらに、本学は多様な背景とキャリアの社会人経験者が多くいるため、世の縮図を産技大にいるだけで感じられた、かつ、貴重な人脈を得ることができた、という感想も聞いています。いずれの方々も、本学で学ぶことにより、独自の考えを展開した独創性や創造性を発揮することができました。では、本学に入学さえすれば、今、ここにいる、みなさんは、独創性や創造性を発揮できるのでしょうか? この答えはNoでしょう。ここで、改めて、みなさんに伺いたい。なぜ、本学で学ぶのか? その理由を今一度自分自身に問いかけてみてください。なぜ、本学で学ぶのかという、学ぶ目的は、みなさん、それぞれ持たれているでしょう。学ぶ代表的な目的として、「問題解決力の向上」、「個人の成長と発展」、「社会的なコミュニケーションを得る」、「職業能力の向上」、「変化する環境への適応力向上」などが挙げられるでしょう。いずれも、人、それぞれにとって大事な目的であり、受け入れられるものです。目的を達成するためには、その手段や心構え、いわゆる、Howをどのような方針として打ち立て、それをどのようにして具体的に実行するのか、それを考えなければならないでしょう。改めて、みなさんに問います。なぜ、本学で学ぶのか? そして、その心構えはどのようにされるのでしょうか?ここでは一例として、先の独創性とは何かを考えてみましょう。研究の世界で、特に若手研究者は、このテーマは誰も考えていないから独創的である、という論を主張される方がいます。この論を主張する研究は、まず、認められません。それは、なぜかについてご説明します。1番目に、巨人の肩の上に立つ、という言葉があります。この意味は、12世紀の哲学者ベルナール・ド・シャルトルに由来するとされており、この後に、かの有名なアイザック・ニュートンが同様のことを述べて、この言葉は有名になったと言われています。この言葉の意味は、人々が過去の知識を活かして、さらに新しい知識を得ることを「巨人の肩の上に立つ」ことで、より遠くを見ることができる、すなわち、新しいことを産み出すことができるという意味です。私たちが、何か新しいことができたとしても、それは、過去の知識や先人達が開発した技術があってこそのものです。従って、独創的な研究や開発といえども、過去の知識に基づくものであり、先人たちへの感謝の念を忘れてはいけません。これだけでは、まだ、独創性の意味ははっきりとしないでしょう。そこで、医学者の武部先生が独創性について、次のように語られました。ただし、医学用語を一般の方に分かりやすい用語に変えています。

  1. 世界あるいは日本国内で、第一人者あるいはそれに並ぶ高い評価を受けている内容であること
  2. 自分が樹立した体系、あるいは自分が見つけた事例があり、それを多くの人が使ったり、引用したり、されている場合
  3. 自分が開発した研究技術、解析手法などを駆使する内容
  4. 多くの人々が注目している分野で、自分の研究の位置づけと意義を明確に示すことができ、しかも具体的な研究計画が示されている場合
  5. 全く新しい技術、方法を強い説得力で提案する研究

この内容は、研究分野での話ですが、一般の、産業界でも通用する内容です。私なりに意訳して、述べますと、あるアイディアを発案したとき、第一に、その考えを他者に理解または納得してもらうことです。次に、それを実現化するための独自の計画と人員配置を明確にした方策を示すことができ、実現化したものをユーザーもしくはマーケットが評価することで、口コミが広がり、他へ波及し、いわゆる、何らかの社会的意義を産み出すもの、それが独創的であると言えるものです。ここで、実現化の方策の手段は、既存のものでも構いません。それを、どう賢く組み合わせるのかが重要です。そして、実現したものに対する評価が重要です。なぜならば、独創的でないものは他者は高い評価を与えず、また、波及することもありません。先に紹介したあなたがたの先輩方々も、初めは、独創的な商品・製品を開発しようと意気込んでいましたが、勘違いをした考え方から初めからは、なかなかうまく考えがまとまらず、また、他者への説明ができなかったそうです。ですが、先輩たちは、この壁を見事に乗り切りました。それはなぜでしょうか? その理由は、幾つかありますが、ここでは、二つだけお伝えします。1番目は、自分自身の実績に頼り過ぎないようにしてください。実績とは過去のものです。みなさんが、産技大において、新しい知識とスキルを修得するのに、時として、実績は邪魔になるものです。そして、自身の実績に頼りすぎて、他者からの評価に耳を傾けなくなるものです。2番目は、人との繋がりを作ることです。この意味は、まず、自分とは異なる考え方や価値観を有する他者に説明する能力が無ければ、みなさんのアイディアは何の意味も持ちません。そう、他者への説明能力を養うには、やはり、人との繋がりは必要です。次に、困難なことを一人で乗り切れることは、人生において、まずありません。誰かの力を借りることで初めて前へ進むことができます。そのためにも人との繋がりが必要です。人との繋がりを作るためには、自ら、良いコミュニケーションを図ることを心がけることが大事でしょう。先に述べた独創性とは、単に良いアイディアを発案するだけでなく、それを他者に説明し、理解してもらい、その上で、協力し合って実現化を果たし、本格的にマーケットの評価を受ける、このプロセスを経て初めて独創的か否かの評価が下されます。このプロセスは、なかなか骨が折れるものですが、この経験を通して、初めて独創性とは何かを実感できるでしょう。

令和7年度秋季入学式画像

産技大は、多様な背景、多様な価値観を持つ学生から成り立っています。また、優れた教授陣と職員達により、みなさんが国内外で評価の高い教育環境を享受することができます。この環境下で、みなさんの学ぶ準備ができているならば、先に述べた独創性を確かめることのできるプロセスを、本学にいるだけで学び、経験することができます。そして、ご自身の考えを、他者に説明し、理解を得ることがどれだけ大変で重要なことであるかを知ることができるでしょう。そこには、失敗や軋轢もあるでしょう。それこそが、みなさんの成長の糧になりますので、過去の自分の殻を破り捨てて、新たな知識とスキルの獲得を目指してください。最後に、私から、みなさんに対する期待を述べます。みなさんは、産技大で学ぶことにより、ご自身のキャリアアップに繋げることは当然として、他者の価値を理解でき、多様な人材から成るチームのパフォーマンスを導きだせるリーダーになっていただきたいと希望します。本学は多様な学生と共に実践経験を積める、我が国随一の大学院と言われています。この環境の中で、多くの友人を作ってください。「学びは最高の自己投資です。」

令和7年9月27日
東京都立産業技術大学院大学 学長 橋本洋志

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