令和8年度秋季入学式
令和8年9月26日(土)、東京都立産業技術大学院大学秋季入学式を実施しました。この日、事業設計工学コース2名、情報アーキテクチャコース6名、創造技術コース5名が入学しました。新入生に向けた学長の式辞を紹介します。
橋本洋志学長 式辞
東京都立産業技術大学院大学に入学された皆さん、入学おめでとうございます。東京都、および、公立大学法人をはじめとした関係者、そして、本学の教職員ともども皆さんの入学を心よりお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで、支えてこられた、ご家族や関係者の皆さまに、心よりお祝い申し上げます。
本学について、改めてご紹介します。本学は、東京都が設置した専門職大学院です。専門職大学院とは、文部科学省の定めにより、高度プロフェッショナルの養成に特化した課程です。科学技術の進展やグローバル化に対応し、社会的・国際的に活躍できる人材を育成することを目的としています。現代社会は、科学技術が発展し、個人や社会の価値の多様化が進んでいます。その上に、世界における戦争、紛争、気象変動に伴う自然災害、エネルギー問題、環境問題、食料問題など、さまざまに複雑な問題が絡み合って、これらに直面しています。そのため、20代までの教育だけでは、この変化する社会で活躍できるのが難しいであろうという背景のもと、東京都と産業界の要請により本学は2006年に開学しました。ここでいう産業界とは、工業製品に加えて、デザインやサービス、さらに商品開発、事業戦略などを産み出す、多くの分野を含んでいます。これらの背景のもと、産技大は、プロフェッショナル人材を輩出するため、優れた教授陣と事務組織を有しています。産技大は、学生のみなさんが、この世に新たな価値をもたらす能力を身に付けることができるような、国内外で評価の高い教育プログラムを提供しています。産技大は、修了生として、企業や社会を牽引できる人材を世に輩出してきたという実績があります。修了生のいずれの方々も、本学で学ぶことにより、人生で活躍できるステージを拡大されました。このように、他の学部や大学院では得られない、独自の教育プログラムと人脈を得られることが本学のブランドとなり、多様な人材が本学に入学されています。例えば、出身大学を見ると、国立、公立、私立のみならず海外の大学、また、大学を出ていなくても非常に実績のある方がいます。所属機関を見ると、大企業から中小企業、そして、自治体などの公的機関、スタートアップ志向、独立経営者など多様性に富んでいます。さらに、多くの学生は、働きながら本学で学び、その居住地が東北地方から九州地方にまたがっています。そして、本学の入試における合格者の入学辞退率はゼロから2パーセントです。この数字は、国公立大学では数パーセント~20パーセント程度でありますから、いかに、本学への信頼が高いかが分かるかと思います。これらのことが意味することは、産業技術分野で活躍できる資質を身に付けるには、我が国において、この産技大が選ばれている、と考えています。その産技大にみなさんは、入学され、学ぶこととなります。
ここで、改めて、みなさんにお聞きしたい。なぜ、産技大で学ぼうとしているのでしょうか? そして、何を、どのように学ぼうとしているのでしょうか?学ぶ目的は、みなさん、それぞれ持たれているでしょう。私の調べた限りですが、学ぶ目的を三つに集約します。それは、「個人の成長と発展」、「社会的コミュニケーションの拡張」、「職業スキルの向上」などです。1番目について、学ぶことは個人の成長と発展を促進します。新しい経験や知識を得ることは、個人的な満足感や自尊心の向上に寄与します。また、新たな興味を見つけたり、趣味を開発することも学びの一環です。2番目について、学びは社会的なコミュニケーションの一環でもあり、拡張できます。コミュニケーションの一環として知識や情報を共有し、他の人と議論することは、社会的なつながりを構築し、文化や社会に貢献する手段となります。3番目について、学びは職業的なスキルの向上にも役立ちます。現代の労働市場では、社会環境は激変しているため、新しい技術や知識を継続的に学び、キャリアの進化に適応する必要があります。現在、良く言われているリスキリングも、これに含まれるものです。いずれも、それぞれ大事な目的であり、受け入れられるものです。これらの目的を達成するためには、どのような能力を身に付けたら良いのでしょうか?産技大は、この目的を達成する方策として、ペーパーテストの評価よりは、コンピテンシーの評価に軸を置いた教育プログラムを提供しています。コンピテンシーとは、分野によって、定義が異なりますが、産技大は業務遂行能力と定義しています。このコンピテンシーを産技大が導入した理由は、1970年代にアメリカ政府機関の職員のパフォーマンスに関して調査した結果、IQの値や学歴は,職員のパフォーマンスに相関が無かったという報告がなされ、その結果、パフォーマンスを図る指標として コンピテンシーが導入された、という実績に眼を付けたからです。産技大は、きめ細やかで独自のコンピテンシーを定め、それを高めるための教育プログラムを独自に開発し、その実績を有しています。この実績の評判は広まり、国内・国外で高い評価を得ています。みなさんは、産技大の教育プログラムをこれから受けてもらうことになります。ただ、どれだけ良いプログラムがあっても、それを受けるみなさんに、その準備と心構えが整っていなければ、みなさんが今よりも成長することは難しいでしょう。したがって、本日、この瞬間から、準備と心構えを具体的に考えるようにしてください。その考え方を幾つか、ここで、ご紹介しましょう。西 剛志(にし たけゆき)氏の著書に「世界一やさしい 自分を変える方法」があり、この中で次の紹介があります。それは、 アップルのスティーブ・ジョブズ、facebookのマーク・ザッカーバーグ、テスラのイーロン・マスクのような成功者は、日々、「自らに適切な問いかけを行うこと」で自分自身、また行動を変えてきた、という事例や考え方が紹介されています。 例えば、毎日、自分に対して「もし今日が人生最後の日だったら、僕は今からすることを『したい』と思うだろうか?」と問いかけること。 例えば、毎日、自分に対して「今、僕は自分にできるいちばん大切なことをやっているだろうか?」と問いかけていること。 このような事例が紹介されています。 このように、自らに問いかけることを、学術的には セルフ・トークと言い、 「言葉や問いかけによって思考・行動・成果が変わる」という現象は、心理学、認知科学、行動科学の分野で多くの論文・研究によって裏付けられています。 いろいろな論が展開されていますが、理論体系は未だ見当たらず、事例ベースを通しての分析がほとんどです。 これらの論を頼りにできるとするならば、 日々、自分自身に向き合い、自分自身に語りかけることは、人間の行動や意欲を大きく前進させることに繋がります。 なぜならば、人を動かすためのエンジンは、人の心が担っているからです。 現代社会において、みなさんは忙しくされていることと推察します。 確かに、人間は、特に社会人は、日々の業務が忙しく、結果だけを求めて、つい効率を求めます。 そのため、最近の流行言葉のコスパ、や、タイパという言葉をセルフトークすることで、自分の行動は正しいのだと自分自身を安心させることが、特に忙しい現代人に良く見受けられます。 しかし、日々のルーチンワークに対して、効率を求めるということは、人間の特性として、同じ刺激に繰り返しさらされて慣れ、反応や感覚が弱くなる現象、心理学で馴化(じゅんか)といい、感覚や知覚が鈍ってきます。 そうなると、新しいことを発見したり、斬新な考えを突き詰めることは難しいとされています。 コスパやタイパを否定するものではありません。生きるためには、時として必要なものです。 しかし、これに、ずっと頼りきると、ご自身の成長が望めなくなるかもしれないということです。 したがって、みなさんが大学院生として、産技大というアカデミアの世界に踏み入れた、この瞬間から、日々、セルフ・トークをされるときには、何が本質で、何が意味あることなのか、ということを突き詰めて考えてください。 そのプロセスは、きっと、効率が良く無いでしょう。 なぜならば、新しいことゆえ、ルーチンワークとしてこなすことができないからです。そして、その困難なプロセスを経ることが、みなさんの成長に繋がるでしょう。 また、今まで、そして、これからも、時代が要求する「価値の創造」という言葉を何度も聞くこととなるでしょう。 そのときにセルフトークとして、その価値は誰にとって意味があるのか? その価値は、他人やマーケットに受け容れられるのか? その価値は、ある人にとって良いものであるが、他の人にとって悪影響を及ぼしはしないのか? そして、それはなぜなのか? ということを考えましょう。 このように、深い深い海の底に入るような深淵なる考えを突き詰めてゆくことこそが、大学院生としての価値を高めるものと考えます。 もう一つ、大事なことをお伝えします。 みなさんが産技大で学ぶ理由の一つに、個人の成長と発展、があるとお話しました。これはとても大事なことです。 しかし、本学を修了されて企業で、または、社会で活躍するには、一人の力では難しく、チームで活動することが求められます。 社会やマーケットは多様で変化します。それに対応できるには、多様な考え方や資質を持つメンバーを集めて、チームで対応するという方法は合理的であり、必然性があると考えられます。 みなさんにお願いしたいことは、みなさんは、このチームパフォーマンスを高められるリーダーになってほしいということです。 このリーダーとしての資質を身に付けるには、理屈だけではなく感覚や知覚も必要です。 さらに、机の上の学習だけでは修得できず、優れたメンターのもとで、洗練された題材を使って、多様な人材とコミュニケーションを取るという実践経験も必要です。 これらを経て、身に付けることができるものです。 産技大には、そのことを実践できる環境があります。特に、産技大独自のProject Based Learningメソッドのもとで、みさんは、自ら能動的に、その環境を利用して学修生活を送り、グローバルに通用するコミュニケーション力とチームパフォーマンスを向上させる能力を獲得することができます。
最後に、改めて、私から、入学される、みなさんに対する期待を述べます。みなさんは、産技大で学ぶことにより、ご自身のキャリアアップに繋げることは当然として、他者の価値を理解でき、多様な人材から成るチームのパフォーマンスを導きだせるリーダーになっていただきたいと希望します。本学は多様な学生と共に実践経験を積める、我が国随一の大学院と言われています。この環境の中で、多くの人脈を作ってください。「学びは最高の自己投資です。」
令和8年9月26日
東京都立産業技術大学院大学 学長 橋本洋志