令和8年度秋季学位授与式
令和8年9月26日(土)、東京都立産業技術大学院大学秋季学位授与式を実施しました。この日、事業設計工学コース1名、情報アーキテクチャコース5名、創造技術コース2名が修了しました。修了生に向けた学長の式辞を紹介します。
橋本洋志学長 式辞
東京都立産業技術大学院大学を修了される皆さん、修了、誠におめでとうございます。
東京都公立大学法人、および、本学の教職員ともども皆さんの学位授与を心からお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで、支えてこられた、ご家族や関係者の皆さまに、心からお祝い申し上げます。
皆さんは、修士の専門職学位を授与されました。
この価値は、みなさんが、産業技術界で真のプロフェッショナルとして活躍できると期待されることにあります。このプロフェッショナル人材育成のために、本学は、コンピテンシーの向上に主眼を置いた教育プログラムを提供してきました。コンピテンシーとは、業務遂行能力と本学は定義し、その能力指標は、創造力、計画力、実現力、評価力など、コースに適合して、多岐にわたります。
このコンピテンシーを向上させる教育メソッドとして、本学はPBLメソッドを採用しています。産技大のPBLメソッドは、アクティブラーニングを包含したものであり、その指標と方策は産技大 独自のものです。この成果が認められて、産技大のPBLメソッドは、国内のみならず海外でも高い評価を得ています。みなさんがPBLを通して創り上げた成果は、PBL成果発表会で披露され、時流に適った社会問題が数多く取り上げられていました。
例えば、都市活動に関わるテーマとして、都市に多く見られる集合住宅における日常生活や防災に役立つコミュニティのあり方の考察、街づくりや防災、環境対策などに役立たせるため、GIS、地理情報システムを含めたデジタル技術を駆使して活用する方法の開発、街中でのモビリティの安全性を高めるための、スマート機器の開発など。まさしく、現代社会が抱える問題を根元的に深く考慮して、みなさんの社会実装を目指した画期的な成果が幾つも発表されました。これらの内容は、ダイジェスト動画として、大学のWebサイトを通じて世界に発信され、研究型の大学院とは異なる価値があることを認識してもらうようにしています。
みなさんが、これらの成果を産み出す過程は、決して平坦なものではなかったでしょう。PBLは数人の学生メンバーが一つのチームを構成します。そのメンバーは、産技大らしく、多様な属性と異なる価値観を有しており、まさしく、社会の縮図を表すと言われているものです。そして、優れた才能を持つメンバーというのは、才能がぶつかり合い,時として摩擦が生じたことでしょう。しかし、そのような摩擦を経験したことが、今後、みなさんが活躍される糧になると、私は信じています。
さて、みなさんが産業技術分野で活躍できる最大の資質は、他者またはマーケットが受け容れられることのできる価値を創り上げ、他者に提供できることです。問題は、価値は受け取り手により、異なることです。
例えば、音楽や食べ物について、ある人はこれが好きと言っても、他者は嫌いだ、という事例は多くあるでしょう。そう、価値は多様です。
これに関して、少しお話ししましょう。
みなさん、いま、黙ったままで、頭の中で「海」を「イメージ」してください。ここでの海とは、漢字で、サンズイの海です。
頭の中に海のイメージを作られたでしょうか?では、逆に、みなさんに問いかけます。頭の中で何をイメージされていますか?南太平洋の、壮大で穏やかな海、白いビーチの海、日本海のように岩に波がぶつかり白いしぶきをあげている荒々しい海、瀬戸内海の鏡のように静かに佇み、小さな幾つもの島々がその鏡に映えている海、みなさん、それぞれに海のイメージは異なることでしょう。
改めて、みなさんに問いかけます。みなさんが、今、頭の中でイメージされているもの風景を漢字一文字で表現してください。
おそらく、皆さんは、漢字の「海」と答えられるでしょう。同じ「海」という漢字から思い起こされる、海のイメージは、ひと、それぞれ異なっています。これは、当然のことと考えられます。なぜならば、みなさんが、培ってきた経験、学んだ知識とスキル、それぞれの感性、これらは、みなさん一人一人は異なる、ことに起因します。
これに関して、より深く論じている方は世界に多数います。ここでは、慶応義塾大学の今井むつみ先生の著書「何回説明しても伝わらない、はなぜ起こるのか」を紹介しましょう。この本の中で、次のように語っています。他人に何回説明しても伝わらないのは、言い方や表現の仕方だけが原因ではなく、先に述べた「経験」、「知識」が異なるため、同じ言葉を聞いても、思い浮かべるイメージや重要度が異なる、ということです。このことを学術的に述べると、スキーマが異なる、と言います。スキーマとは、教育学の分野では、全体を理解するルール、または、その枠組みのようなものです。人は、このスキーマ、すなわち、ルールの獲得の仕方、および、形成されたルールは、大枠では同じでも、細部は異なる、というものです。
したがって、日本人が良く使う、「話せばわかる」は、時として通用しない、ということが言えます。もちろん、人と人が円滑に付き合うためには「話せばわかる」という手法は大事ですが、この手法だけを頼りにすると、うまくいかないことがあるのは当然です。
では、どうしたらよいのか。有力な方法として、相手のイメージ、感性を推定する、または、共感することがあげられます。これは、少し難しいことです。なぜならば、経験と知識、それに基づくスキーマが異なる、という前提があるからです。なお、共感には、英語では、Empathy とSympathyがあります。
ざっくりいうと、Empathtyは自己体験からの感情、Sympathyは経験は無いが同情や憐れみを抱く、ということです。ただ、日本語の共感は、どちらも含みますので、話を簡単にするために、日本語の共感を用いましょう。共感できれば、他者が、なぜ、それを大事に思えるかの価値感を理解できることになります。共感できれば、あなたがたは、他者の価値を身近に感じることができ、そして、心からそれを尊重することができます。この共感できる力。そう言われても、なかなか身につくものではありません。共感力を向上させるためには、実践を通した経験を積み重ねることが必要です。
みなさんは、PBL演習を通して、他のメンバーから、自分と異なる価値観を見て、聞いて、感じたことでしょう。それにより、他者の価値を理解し、認める力、すなわち、共感する力を向上させていることでしょう。共感できる力を有している人が、他者が受け入れられる新しい価値を作り出すことができる、と私は信じています。この能力を育成するカリキュラムを提供していることに、産技大の特徴と強みがあります。そして、本日、みなさんは、多くの専門知識とスキルを獲得し、そして、他者に対する共感力を向上させ、社会に貢献できる新たな価値を提供できる資質を有して、修了されます。
最後に、産技大は、社会の技術革新と価値の変化に適応できるよう、継続して、教育と研究の在り方を探求していきます。そのため、産技大は、先端教育システムを通して、深い学びができる教育を実施し、さらに、多くの外部機関と連携して社会に貢献できる研究を推進し続けます。そして、修了生や在学生にとっても、また我々教職員にとっても、人々の幸せと、社会の持続的な発展に貢献する、誇りある大学院であるようにいたします。
産技大の一員であるという誇りを胸に、皆さんが大いに活躍することを心から祈念して、私からの祝辞といたします。
令和8年9月26日
東京都立産業技術大学院大学 学長 橋本洋志